人間ドックと健康の維持・検査データの活用

2016.10.20 岡田定晴
 メランコリア(作曲:Amacha)

 ICT(情報通信技術)の世界では、この5年~6年の間に、「クラウド」や「モバイル」が大きく発展して今や当たり前のインフラになりました。 今は、ビッグデータの解析結果を役立てたり、人工知能を駆使して問題を解決していく時代に突入したように思います。 今年8月初旬、人間の言葉を理解し、膨大な情報から解決策を導き出す能力がある人工知能が、専門の医師でも的確な診療ができなかった患者の命を救ったと言う出来事が 大きく報道されました。詳しく言うと、がん研究に関する2000万件以上の医学論文と約1500万件の抗がん剤情報を学習させていた人工知能に、 医師から「急性骨髄性白血病」と診断され、抗がん剤治療などを続けていたが病状は良くならず生命の危険もあった女性患者の約1500カ所の遺伝子変異のデータを 持ち込み分析させたのです。すると、わずか10分で原因となる部分を特定し、有効な抗がん剤も提案。「二次性白血病」であることが判明し、治療方法を変えたところ、 容体が回復に向かったとのこと。このニュースは世間の人々に、多くの医学データの集積と人工知能の活用が、どれほど役に立つのかということを教えました。



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 私が人間ドックを初めて受診したのは30代半ばのことでした。しかし、自分の健康に無関心だった私は、人間ドックを1回受診しただけで中断してしまいました。 その後、モーレツに忙しくなった40代になって、妻から「家族のために人間ドックを受けて欲しい」と懇願されて、日帰りの人間ドックを受診することにしました。
 数日前からの検査準備や前日からの絶食、当日検査を円滑に進める看護師のエスコート、超音波検査や胃カメラ、医師による検査結果の報告など全てが新鮮でした。 それから毎年同じ時期に人間ドックを受診し、もう20年が経過しました。20年も続けられたのは、初回の検査のとき、病院の壁にかかっていた「その病院で人間ドックを始めた院長の言葉」でした。 「病気になってからでは遅い。病気になる前の「未病」の段階で発見し対策をしていくことが、健康を維持するのに不可欠である。」という趣旨の言葉が書いてありました。 体重さえ70Kg以下にコントロールすれば全く問題ないと言われたことや、今のような生活を続けると、将来、高血圧や糖尿病になる可能性がある言われたこともありました。
 5年目の検査で、自分自身の検査データの平均値が算出され、そこからどの程度外れているのかが直感的にわかるような、検査データを視覚化したグラフが渡されました。 毎年、どのデータも基準値内にあり、自分の平均値からも大きく外れていないことで安心していました。 父を心筋梗塞で、母を胃がんで亡くして、自分や家族が健康に暮らすために、病気の原因となるリスクを減らすことを心掛けました。 検査可能な腫瘍マーカーを全てチェックしてもらうようにしました。

 還暦を過ぎてから、人間ドックの結果に「再検査でチェックをすること」という項目が増えました。無精をして検査を受けた病院まで行かないで、 再検査を地元の病院やクリニックで受け、十分な説明も無く、悪い結果が出た原因もわからないまま、時間が過ぎていくこともありました。 そんな時には、気を取り直して20年間も人間ドックを受診した病院で診てもらいます。 医師は、私自身の過去の人間ドックの検査結果、つまり医学データを端末で見て診断に役立ています。 自分で過去のデータを持って行ったり、記憶にある曖昧な数値を伝える必要はありません。 その人間ドックの医療機関に消化器とか呼吸器とか、問題とみられる部位の専門医がいない場合は、 その道の専門医に紹介状を書いてくれます。専門医は、多くの患者を診て、データの蓄積があるから判断が早いのでしょう。 病気の原因を短時間に判断され、治療して治っています。

 ICT(情報通信技術)の進んだ時代にも、誰かが強力に推進しなければ実現できないことがあります。 医療情報の共有化です。理想を言えば世界中の病院や診療所の患者さんの医療情報の共有化です。 そうすれば、私が「いつ、何処で」具合が悪くなっても国籍や住所、それに他人と間違われないための個人情報を告げれば、 私の医学的なデータは瞬時に把握してもらえて、的確な処置を受けられます。しかし、現実には世界共通どころか、 日本の中に小さな医療情報ネットワークもあるようには思えません。 せいぜい、国内では同じ系列の病院の間で、各病院間の医療情報ネットワークを使えるようになっているのかなと推測できる程度です。  医療情報の共有化ができていない現在、私は極めて不便で不合理な目に会います。 同じ時期に、人間ドックを受けている病院と、紹介された2件の病院(異なる病気)に通うことがありました。 病院が変わる度に、血液検査を行い、別の病院で測定された検査データは活用されません。 3つの病院で、一か月に計5回も血液採取を受け、倒れはしないかと心配しました。こうした医療データを、 オンラインあるいは医療機関共通のICカードのようなもので管理して、患者の負担や無駄を省くことはできないものでしょうか。

 人工知能が名医でも診察が難しい患者の命を救う時代に、人の健康維持・命を守るための基本的な医療データの 集積・共有化がなされていない現状を悲しむばかりです。


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