インターネット生中継

2017.01.29 岡田定晴
 陽炎(作曲:Amacha)

 テレビ放送と同時に、今起きていることがインターネットで生中継されることがあります。 日本時間1月21日未明の「アメリカ大統領就任式」のようなビッグイベントや、6年前の「東日本大震災」、昨年の 熊本地震などの大災害の時などです。オフィスや電車の中など、テレビが無い場所でインターネットでテレビの生放送と同じコンテンツが視聴できる ことは、重大な関心事や大きな災害時などには、ほんとうに有難いと感じます。テレビやラジオを持っていなくても、 常にインターネットに接続された端末(スマホやタブレット)を多くの人が持ち歩いている時代ですから、 これで放送コンテンツを見たり聞いたりするのは自然な流れだと感じます。 また、生中継ではありませんが、dTVやNetflixやHulu、オンデマンドなどの動画配信サービスも数多くあり、 インターネットでのストリーミング配信は、もう珍しくはない時代になりました。

 きわめて多くの人々に提供する放送局が行うライブ配信(生放送)とは異なり、テレビ視聴者とは比べることもできない程の、 ごく限られた少人数の人々対象に行うライブ配信があります。 卒業式や入学式を生中継している大学が数多くあります。主に遠隔地の親族など出席できない人や、 会場のスペースの関係で出席を制限せざるを得ない状況に対応して、式典の様子を伝えるためです。 これこそ、テレビにはできない、インターネットならではのコンテンツでしょう。いつの間にか インターネット生中継は我々の生活に入り込んでいます。



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国旗を持って入場する学生 卒業生  私自身、ライブストリーミング配信先の当事者になったことがあり、卒業式のライブ映像を見るという体験をして、 ICT(情報通信技術)の発展で世の中が変わったのだということを身に染みて感じました。 一昨年(2015年)の5月、アメリカの大学の卒業式(学位授与式)の様子を、インターネット生中継で見ました。 大学が、卒業生の家族や関係者に卒業式を見てもらうため、卒業生にインターネット中継の視聴方法を事前に知らせたのです。 大学のPBS(Public Broadcasting Service.)が、Ustreamを通じて全世界に卒業式の様子を生中継しました。 iPadでUstreamをセッティングして待っていると、予定の時間通りに中継が始まりました。 そこで見たのは、日本とは違う「アメリカ」を感じさせる卒業式でした。 卒業式は、博士課程、修士、学士、それに来賓合わせて2000人近くが参加しました。

学長と握手 卒業生の家族  色々な国からやってきた海外からの留学生が、国ごとに代表者が母国の国旗を持って入場しました。 来賓の挨拶や、顕著な業績を残した博士号の取得者の紹介の後、卒業生一人一人が修了書を手渡され、学長と握手する 様子が中継されました。学長は、日本のように壇上の高いところに立つのではなく、卒業生と同じ通路に立ち、 卒業生一人一人と握手をするのです。また、卒業式に列席している家族は、普段着のようなラフな服装でした。 最後に、学長が壇上から激励の言葉を贈りましたが、「この大学で学んだここにいる人たちは皆仲間なのです。」 という言葉が印象に残りました。 中継終了後のUstreamの画面には、合計視聴数847、facebookのいいね!が320と表示されていました。 色々な国の留学生やアメリカ国内の遠い地域から学生がやって来ているとはいえ、わずか847人の為に アメリカから世界に配信したのです!私にとっては、信じられない程の驚異的な出来事なのです。

 私が初めてアメリカからのテレビ映像を見たのは、昭和38年(1963年)の11月、小学5年生の時でした。 11月23日の早朝、初めて日米宇宙中継が行われました。しかし初めて成功した宇宙中継で伝えられた 内容は、ケネディー大統領暗殺の悲報だったのです。小学校に登校する準備をしながら見たその放送に大変なショックを 受けたことを覚えています。今思えば、歴史に残る出来事を目撃したのです。

 この日米宇宙中継の成功で、世界がリアルタイムに結ばれ、昭和39年(1964年)の東京オリンピックが 全世界に中継されました。その後、海底光ケーブルや衛星の技術の発展で、スポーツイベントや事件事故などの ニュースが全世界を駆け巡るようになりました。しかし、こうした中継には莫大なコストがかかりました。 海外生中継(海外からの生放送)に莫大なコストがかかると言う事の意味。それは、海外生中継を行うには莫大な コストをかけても成立するための極めて多い人数、地方局でも少なくても30万人程度の「見て喜ぶ人」がいること が絶対条件であることを示しています。ですから、テレビでは小人数の為の世界的なライブ中継は不可能なことでした。 これが可能になるには、インターネットの普及、映像のデジタル化と映像圧縮技術、ストリーミング技術などが 確立し、安価に使えるようになる21世紀を待たなければなりませんでした。

 初めての日米宇宙中継から52年を経て、小人数限定のアメリカで行われている大学の卒業式の生中継を見たのです。 アメリカ国内や世界中に分散している大学卒業生の家族や関係者のための生中継を見たのです。 自分が子供のころから今に至るまでのICT(情報通信技術)の発展を思うと、このアメリカの大学の卒業式のライブ中継には、 とても感慨深いものがありました。昭和38年11月23日に小学生だった私がアメリカからの衛星生中継で ケネディ暗殺を知り衝撃を受けたのと同じくらい、衝撃的な出来事だったのです。テレビにはできないことが インターネット(ICT)では出来るようになっている。では今だからこそ、改めて考えるべき「未来に向かっての テレビとICTの融合や役割分担」はどうあるべきなのか? どういう未来にすべきなのか。その回答は、未だ誰も持ち合わせていません。


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