デジタル記録した情報の寿命~その2~

2017.11.02 岡田定晴
 あの日に帰れたら(作曲:Amacha)

 前回は、デジタル記録の良い点を中心に私の考えを記述しましたが、 今回は前回に引き続いて、②デジタル記録の弱点、③記録方式の変遷 について、私の考えをまとめます。

5インチフロッピー 3.5インチフロッピー MOディスク

②デジタル記録の弱点
・新しい記録媒体や規格が次々に現れ、媒体の書き込み・読み取り装置が製造中止、或はパソコン等の外部記憶装置として採用されなくなり、情報が再現できなくなる。 (8吋フロッピー、5吋フロッピー、3.5吋フロッピー、MOディスク、CD、DVDなど)

・アプリケーションのOSへの適合性の問題や、企業の対応で、それまでの情報が再現できなくなる。 (PC9801/MS-DOS上で動作したワープロやデータベースの情報、iPadで動作する手書き文字認識機能のあるワープロの7notesはiOS11に対応せず使えなくなった)

・記録段階で設定した品質以上のものは再現できない。 (サンプリング周波数や量子化ビット数により、再現可能な周波数やダイナミックレンジが制約される。)

・技術進歩で復元手段がなくなることとは別の問題として、記録媒体の物理的な劣化による寿命がある。 (紙に鉛筆や墨や絵具で書く、石や金属を彫って記録することなどに比べて短いと思われる)


 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、 久しくとどまりたるためしなし」という方丈記の冒頭を思い出します。私が経験した音声や映像の記録再生装置、 マイクロコンピュータ・パーソナルコンピュータ・タブレットコンピュータやそのソフトウェアは、正にこの随筆の通りです。 永遠に続くと思って記録し保存した映像・音声・情報も、いつの間にか再現できなくなっているのです。このようなことを何度も経験しました。

 一番目の弱点に関しては、情報をクラウドに置けば、問題を避けられるかもしれません。 クラウドは、情報を預けるので、利用者としては記録メディアの進化への対応を考える必要が無いからです。 万一のトラブルに備えて、手許にバックアップを持っておく必要はあります。 また、現実的にはコスト面の理由で大量のデータを預けることができません。 最悪、クラウド事業から撤退されるという事態も考えておかねばなりません。  二番目の弱点に関しては、特定の企業に依存する規格や仕様は使わずに、世界標準技術、オープンソースを採用することで、問題を避けられるかもしれません。 HTML5、CSS3、Javascriptのオープンソースや、WordPressなどのオープンソースを使うこと、即ちインターネットやブラウザの 使用を前提とした保存資料やコンテンツをつくれば、より汎用的なものになります。私は、最近、インターネットを介してブラウザでプレゼンテーションを行う ソフトを作成して使用しています。




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③記録方法の変遷
・音声の記録・再生は、レコード盤(再生)、オープンリール、カセットテープ、CD、MD、メモリー、(記録の後)クラウドのストレージへ

・映像の記録・再生は、βマックス、VHS、SVHS、Hi8、DVD、HDD、メモリー、(記録の後)クラウドのストレージへ

・マイクロコンピュータからパーソナルコンピュータの記録・再生は、8インチフロッピー、5インチフロッピー、3.5フロッピー、MOディスク、CD、DVD、HDD、フラッシュメモリー、クラウドのストレージへ


 これらは、私が実際に経験したことです。振り返ってみれば目まぐるしく変化しています。 『ほんの少し前のものなのに再生や復元ができない』ということは、当然のことだったように思います。 新しい記録媒体が登場するたびに、既存の記録媒体にある音声・映像・情報など、全てを コピーしておかなければ、貴重な記録もいつかは再現できないものになってしまいます。 冒頭の写真は、そのほんの一部ですが、私の手持ちの機材ではもう再現できません。

 少し余談になりますが、数年前、私は、CEATECのある大メーカーのブースで、『監視カメラの映像を既存のケーブルを使って IP伝送する』という展示を見ていました。その展示の説明者に私が『NTSC』という言葉を話したら、『それ何ですか?』と何度も聞き返されました。 私は唖然としました。大メーカーの技術者でも、カラーテレビの標準方式『NTSC』を知らないほど時代が変わってしまったのかと衝撃を受けました。 アナログ時代には、最先端の開発をしている人でも『NTSCが無くなるということは絶対にあり得ない。』と思っているほどのものでした。 今の時代、カラー映像の伝送は、インターネット回線を使ったIP伝送が安価で安定で使い勝手の良い方法で、これに勝る方法はありません。

 この半世紀は、技術が未熟な段階から急速に発展したために、記録手段が次から次へと変わりました。 現在市販されている装置を使って20年~30年昔に記録した文書・映像・音声などの情報を 読み出すことはできません。技術の進歩が止まれば、長期間、安定な記録方式が定着するのでしょうが、 そんなことはとても考えられません。だから、将来に残そうとしてデジタルデータを記録しても、 あまり意味が無いことのように思います。 デジタル記録は、『今、あるいは数年のスパンで、多くの人が情報を利活用する目的で使用する手段として、 人類の歴史の中で最も優れた記録方式』で、『数百年も、数千年も未来にむけて情報を届けるための記録方式ではない』 と理解すべきでしょう。デジタルデータで仕事をするようになり、やっとペーパーレスが定着していこうとする今の時代、 大きな落とし穴かもしれません。

 この「平成の徒然草-ICT版」は、情報通信技術の発展と活用によって変わっていく世の中を、 この六十数年の間、私が自ら体験したことや感じたことを、随筆でわかりやすく描くものです。 生活者の目線で描く「情報通信革命の時代の記録資料」として、またICTが苦手な人には参考情報として、 お役に立てばと思っています。紙に書いたり描いたり、石に刻んだり描いたものは、 何千年も何万年も残ります。今から700年前に書かれた徒然草、 400年以上前に書かれた明智光秀や豊臣秀吉の書状も読めますが、 今、ハードディスクやメモリーにデジタル記録した「平成の徒然草-ICT版」は、400年後、700年後には、 間違いなく読めなくなっていることでしょう。


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