国家戦略の重要性 ~その1~

2019.09.30 岡田定晴
 悲しい夢(作曲:Amacha)

 「米中貿易戦争」や「日米貿易交渉」、「日韓貿易摩擦」「日韓対立」のニュースが連日報じられています。 日本は、「卓越した技術」や「理念」を持ち、経済力があり他国から尊敬されるような国でなければならないと思うと同時に、 国家戦略の重要性を感じるようになりました。

香港島の夜景
 アップルは9月23日、パソコンの最上位モデル「マックプロ」の新製品をテキサス州オースティンの工場で生産すると発表しました。 既に今年6月、コスト削減のため最上位モデルマックプロの新製品を中国・上海で生産していると伝えられていました。 中国で生産したアップル製品の一部は、今月からトランプ政権による中国への追加の関税措置の対象になっていますが、 アメリカ政府が、中国で製造したマックプロの部品を関税の上乗せの対象から除外したため、アメリカ国内での生産が可能になったということです。

ヴィクトリア・ピークから眺める香港
 かつてアメリカで販売される日本車は全て日本で生産されたものでしたが、貿易摩擦、自主規制、アメリカでの現地生産推進という経緯を経て今日に至りました。 「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領は、自動車と部品の関税を引き上げる可能性を示唆し、日本からの輸入車の関税大幅アップ、 北米自由貿易協定(NAFTA)でこれまで関税ゼロであったカナダやメキシコからの輸入車にまで新たに関税をかけようとしました。この状況下で、 トヨタは、2021年末までの対米投資を30億ドル上乗せし約130億ドルとしました。政治の意思でアメリカ国内生産を増やすことになりました。 ただし、日本時間9月26日未明、日米貿易協定に最終合意し、日本製自動車および部品への追加関税は当面発動されないことになりました。

香港島 中環
 アメリカ商務省は、中国のファーウェイ(HUAWEI)について、安全保障や外交政策上の利益に反する活動をしているとして、 アメリカの企業が政府の許可なく取り引きすることを禁じる措置を5月15日に、 さらに16日に、取り引きを禁じるリストに、日本法人を含む68の関連会社を加えたことを発表しました。 また、政府の許可を求める申請は原則的には退けられると、厳しい対応を打ち出しました。 中国は「市場の公平性の原則に完全に違反」と強く反発しました。

 これに続いて、大きなニュースが次々に入ってきました。ただし7月以降は、「日韓貿易摩擦」「日韓対立」のニュースに 隠れてしまい、最新の状況は把握できていませんので、現在は下記の記述から変わっていると思われます。 ただ、5月中旬以降、この問題の影響がいかに大きかったかを物語るものです。

・19日、グーグルがスマホ用の基本ソフトのHUAWEIへの提供を停止
 HUAWEIが新たにつくるスマホは、「グーグルプレイ」や「Gメール」などのサービスが使えなくなる可能性がある。

・22日、HUAWEI製スマホの新機種、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルなどが発売の延期と、すでに開始していた予約の受け付けを停止。

・イギリスでもボーダフォンなど大手携帯電話会社の間で発売を見合わせる動きが拡大。
イギリスの大手携帯電話会社「EE」は30日に5Gのサービスを開始するにあたって対応するHUAWEI製のスマホを発売する予定であったが、 グーグルの機能を利用者が十分に使えるか確認が必要だとして発売を見合わせた。 「ボーダフォン」もHUAWEI製の5G対応のスマホについて注文の受け付けを停止。

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・5月23日、シャープは、HUAWEIに提供している電子部品などが、アメリカ政府の禁止措置に該当するのか、調査していることを明らかにした。 調査の結果、該当する場合は「規制に従い対応する」方針。

・パナソニックは、アメリカ政府によるHUAWEIへの部品の販売禁止措置を受け、電子部品などの取り引きを中止する方針を決定。
HUAWEIに電子部品などを供給しているが、アメリカ企業から部品や技術を調達していて、それを組み込んだ部品やソフトウエアが、禁止措置の対象になる可能性がある。

・日本の格安スマホ大手3社(オプテージ、IIJ、LINEモバイル)も、24日に予定していたHUAWEIのスマホの新機種の発売を延期することを決めた。

・ソフトバンク傘下の英半導体企業Armが、米商務省による貿易制限命令に対応して、HUAWEIとの取引を停止した。
 ArmはHUAWEIとその子会社との「すべての有効な契約やサポートおよび保留中の契約」を停止するよう従業員に通達。

 HUAWEIは自社スマホ搭載のプロセッサ向けアーキテクチャをArmに依存し、加えてArmベースのチップが中国の5G基地局およびサーバーにも使用されている。 すでに発売中の製品には影響はないものの、新規設計のプロセッサ開発は困難になると予想される。

 HUAWEIは3ヶ月から1年分の米国製部品を備蓄していると観測されているが、インテルやクアルコムといった米大手半導体メーカーも主要部品の供給をストップしており、 将来的には枯渇は確実と思われる。一方で、米国企業も巨大な顧客を失うということにもなる。

・5月24日、HUAWEIの新製品のスマホ発売を延期する動きが相次ぐ中、Amazonも日本で直販する新製品の販売を事実上停止した。

・5月25日、HUAWEI、SDカードやWi-Fiの標準化団体から追放か 今後のスマホ開発に暗雲
①同社がSDアソシエーション(SD製品の規格を管理する非営利団体)から除名されたことが明らかとなった。 メンバーでない企業は、正式にSD規格をうたった製品の製造および販売はできない。 HUAWEIはハイエンドモデルには独自規格のメモリカード「NMカード」を採用しており、それらのデバイスについては影響はないと思われる。
②無線LAN製品の規格を管理する業界団体Wi-Fi Allianceが、HUAWEIの参加を「一時的に制限した」と表明した。
③半導体技術の標準化を進めるJEDECが「2019年5月17日、HUAWEIはJEDECに対し、米政府による制限が解除されるまで自発的にJEDECへの加盟を停止することを決定したと通知した」と述べた。
これら3つの動きから、HUAWEIが標準化団体から排除されつつある。

・5月27日、止まらぬHUAWEI離れ…アマゾン直販停止、中古スマホ店も買い取り中止へ

・5月30日、HUAWEI、韓国企業に「HUAWEI排除」しないよう要求か


 これらの例(APPLE、トヨタ、HUAWEI)は、アメリカ大統領(または国家)の戦略または力によって、 生産拠点をアメリカ国内に戻したり、国家の利益に反する企業や国の野望を衰退させるという、 あまり経験したことのない事態に直面していることを示すものだと思います。 思い起こしてみれば、1980年代後半から1990年代半ばの日米貿易摩擦・日米半導体摩擦は、 アメリカの戦略によって日本の経済力が弱められた事件でした。 今は、中国の台頭に伴う「米中貿易&ハイテク戦争」の時代なのでしょう。

 次回「国家戦略の重要性 ~その2~」は、日韓対立、過去の失敗を繰り返さないために、 などについて記述します。



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