第六十六段
ウェブキャスティング

 インターネット以前の時代には、「映像」や「音声」の配信は、「放送」でしか実現できませんでした。勿論、ディスクやメモリーに記録して配布することは可能でした。インターネットの時代になって、初めてYouTubeやUstreamの動画を見たとき、インターネットラジオを聴いた時の驚きは今でも忘れられません。それまで出来なかったことが、出来るようになったのです。でも、それももう10年以上も昔のことになってしまいました。今の子供は、物心ついた時からiPadでゲームをしたりYouTubeで子供向けコンテンツを見るような時代ですから、インターネットを通じて「映像」や「音声」が伝えられることが如何に凄いことなのか、画期的な事であったのかははあまり考えることもなく、驚くこともありません。

 当初、それはインターネット回線に接続した屋内のパソコンや、モバイル環境にあるパソコンやタブレットPCに限られたものでした。ところが、2011年(平成23)ころから、スマートフォンが急速に普及して、いつでも、どこに居てもインターネットに接することができるようになり、電車の中でも動画を見たり音声を聴くことができるようになったのです。しかも殆どの人がスマートフォンを持っていますから、テレビやラジオを持ち歩いて利用する人は無く、スマホでネットラジオや動画配信が利用されるのでしょう。

 こうした時代になったからできた言葉なのでしょう。英語で”webcasting”という言葉があります。インターネットの辞書で調べると、次のように書かれています。

○ goo辞書(英和・和英)
[名詞] 〔インターネット〕 ウェブキャスティング:ワールドワイドウェブを利用した情報発信.
語源: World Wide Web + broadcasting

○ Weblio英和辞典・和英辞典
Webを通じて動画配信などを行うことである。

○ コトバンク デジタル大辞泉
ウェブキャスティング→インターネット放送
インターネットを通じて動画や音声を配信するサービス。従来のテレビ放送のように番組の放送時間が決まっているストリーミング型と、動画ファイルをまとめて受信して聴取するダウンロード型とがある。音声のみを配信するものをインターネットラジオという。ネット放送。ネットテレビ。ウェブキャスティング。ウェブ放送。

 「webcasting(ウェブキャスティング)」は、「インターネット放送」とか、「webを通じて動画配信を行うこと」「インターネットを介して生中継されるビデオ放送のプロセスである」とする辞書やサイトが多いのですが、私は「ワールドワイドウエブの特性を活用した情報発信である」と考えたいと思います。

 その理由は、「放送」は、完成された映像や音声や情報を、専用の電波やケーブルを通してテレビ・ラジオ受信機に送り、受信機で再生するもので、一方通行のものだからです。「完成された映像や音声や情報」をインターネットという伝送路で配信するという使い方をするのが勿体ないと思うからです。これなら、伝送路が違うだけで、テレビやラジオと同じ情報しか伝達できないからです。また、放送が得意とする同時大量配信は、インターネットは苦手なのです。

 テレビ・ラジオの「ブロードキャスティング」と違い、インターネットの「ウェブキャスティング」は、ネットに繋がる端末があれば、世界中どこでも、何時でも、オンデマンドで配信を開始し、各コンテンツを受信環境に応じて最適なフォーマットで提供できます。放送で言えば、国内でも受信できるオンデマンドの国際放送ということになります。もちろん、ストリーミングで、生放送もできます。文字情報、データ、映像、音声、グラフィックスなど、様々な情報を個別のニーズに応じて配信できます。ただし、テレビやラジオは、誰もがその存在を知っていてチャンネルを合わせるので多くの人に接することができるのですが、ウェブを利用した情報発信は、その存在が知られていなければ誰も受信することができません。

 インターネットにしかできない大きな可能性が一杯あるのに、webcasting(ウェブキャスティング)を単に「インターネット放送」「動画配信」という意味にしてしまっては、インターネット配信の可能性を潰してしまうように思えて仕方ありません。「ワールドワイドウエブの特性を活用した情報発信である」と考えたほうが、発展性を感じさせるものに思えるのです。そう考えて、6月4日より、新たなコンテンツ「渋谷 朗読シアター」(TOPページの”Recitation”か下記の釦をクリック)をオープンしました。

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 渋谷 朗読シアター
 単なる動画や音声配信ではない「webcasting(ウェブキャスティング)」にチャレンジしました。まだスタート地点に立ったばかりですが、新しいメディアを育てていきたいと考えています。

 高速大容量が実現する5Gの時代(2020年一部、2023年全国)には、webcasting(ウェブキャスティング)は、更に大きく発展していくことでしょう。

第六十五段
ESTA(エスタ)

 この夏、アメリカ国内の空港を経由して、メキシコの地方都市に行くことになりました。日本からの直行便が無いので、アメリカを経由します。これまで、アメリカには何度も行ったことがありますが、VISAが免除されていて、パスポートだけで入国審査を受けていました。それが、2009年の1月12日から、アメリカに渡航する前に、ESTA(Electronic System for Travel Authorization)の申請をして、渡航認証の承認を得たうえで渡航し、現地の審査官が入国の最終決定を下すことになっていたのです。アメリカの空港を経由するだけの場合も、このESTAの承認が必要です。その申請に14ドルを支払う必要があること、最新の技術を活用して国の安全を守ろうという姿勢にカルチャーショックを受けました。

 ESTAは、オンラインシステムで申請することができます。一度認証を受けると2年間有効で、その間にパスポートが切れる場合、新たにパスポートを取得した場合、性別・国籍・申請の回答内容変更などがある場合は、再申請をすることになります。

 ESTA申請公式サイトは、日本語で書かれています。まず、コンピュータシステムへのアクセス・セキュリティに関する通告を読んで、確認して次に進みます。申請者の情報(姓名、生年月日、出生市区町村名、出生国)、両親、パスポート情報、市民権・国籍、
連絡先情報、ソーシャルメディア(オプション)、緊急連絡先、渡航情報、勤務先情報、適格性についての質問、などに答えます。ここまで情報を入れなくては渡航させてもらえないのかと思うほど詳細な内容を訊かれますが、これもテロを未然に防止し、安心して旅行するために必要なことと思えば納得のいく質問ばかりです。そして、申請内容の確認、支払いへと進みます。最後に、「あなたの渡航認証は審査中です。72時間以内に判定が下されます。再度このウェブサイトにアクセスし・・・認証に関するESTA状況を確認してください。」「支払い手続きが実行されました」というメッセージが表示されます。

 一つ一つ慎重に情報を書き込み、何かあった場合に備えて画像をキャプチャーして内容を記録していくと、結構な時間がかかります。ESTAの情報システム側からみると、セキュリティの観点から一定時間以上接続できないのか「時間オーバーです。このまま作業を続けるにはこのボタンを押してください。」とういう主旨のメッセージが何度も表示されました。推定平均記入時間は20分となっていますが、途中まで入力したときに何度もエラーメッセージが表示されたため、最初に戻ってやり直したので、一時間近くかかってしまいました。

 申請の翌日に、ウェブサイトを確認すると、「認証は承認されました」というメッセージと注意書き、支払領収書が表示されました。この画面をコピーして旅行に持っていくことになります。そのページの最後に、「旅行およびツーリズム公式ウェブサイト」や一次審査エリアでの自動化手続きの紹介があり、「楽しいご旅行を。米国訪問を歓迎します。」と書かれていました。

 気付いてみればいつの間にか、海外旅行をするにも、ICT(情報通信技術)のお世話にならなくてはならない時代になっていました。ここで述べたような「情報システムの操作」が的確にできなければ、人に頼るしかありません。ESTAの申請費用以外に手数料はかかりますが、この申請を代行するビジネスもあります。ESTAのお陰で、安全で快適な旅行が支えられていると考えれば、入力の手間が多少面倒であることは我慢すべきでしょう。また、申請費用14ドルというのは、高価な印象を受けますが、ESTAの情報システム開発や維持運営に必要な経費をしっかりっと確保するために必要な金額なのでしょう。ICTの恩恵を受け、それにお金を支払う時代になったのだと感じました。

第六十四段
ICT(情報通信技術)発展の裏側
   ~その2~

 でも、ここまできたプロジェクトも、そのまま順調に成長していくことは難しいものです。何故でしょうか。

 その理由の第1は、ICTの新しい技術がこれまで不可能であったことを可能にするがために、「既存の秩序を壊す」からです。最新の技術を採り入れて成果を出そうとする「顧客の側」は歓迎しますが、従来の手法で開発の仕事をする人たちは強力なライバルが現れたと感じて摩擦が起きるからです。これを乗り切るには、それに対する心構えやエネルギーが必要になります。でも、これを器用にかわして泳ぎ回ることができる人は多くはありません。

 第2は、どんどん進歩していく新しい技術の流れに適応しなくてはならない一方で、目の前のお客様のニーズに応えなければならないという必要に迫られます。どちらかといえば、目の前のニーズに応えることを優先せざるを得なくなります。そして、新しい技術への挑戦は後回しになります。これを避けるには、一つのグループで全てに対応するのではなく、新しい技術に挑戦していくグループと、安定的な収益を目指すグループの2つに分けることです。でも現実には、このような対応は、よほどゆとりのある組織でなければできないでしょう。

 第3に、アウトソーシングの問題があります。内製化は原価を削減して技術やノウハウを蓄積することができます。技術の育成には、内製化が必須です。しかし、外部に発注するアウトソーシングに比べ、手間がかかるので、内製ばかりでは業務が逼迫することになります。効率が悪いという理由から、外部の力を借りることを当然のこととする人もいますが、技術やノウハウの蓄積のため内製化が必要であるという認識がなければ、業績向上があったとしても一時的なものです。技術やノウハウの蓄積のために(=成長のために)内製化をするという発想のできる人も少ないのです。誰も、目の前のことのみを考え将来を考えるゆとりが無いのと、開発の経験がなければその重要性が理解できないのです。

 このことをもう少し考えてみます。アウトソーシングしても構わない仕事か、内製化をなしなくてはならない仕事かを長期的な視野で判断しなければなりません。外部に頼っていては、お金も技術も外部へ出てしまい、内部には何も残りません。「技術が外部に出る」というのは、持っている技術が流出するという意味ではありません。開発の試行錯誤の過程で、様々な技術やノウハウが身に付くものです。アウトソーシングすればその技術やノウハウは、外部の人材に蓄積されていくのです。開発を依頼する側には技術やお金は残らないのです。外部の力を借りることによって、一時的に多くの仕事を効率よく処理したり、利益を上げることはできるかもしれません。しかし、外部に頼った結果、技術を失くしてしまえば、依頼する作業内容の価値がわからなくなります。その依頼に対して、コストがどれくらいかかるかということも評価できなくなります。内部で行えば短時間で処理できることも、手間暇かけてお金を渡して人に頼むことになります。多くの技術が身についていることで可能となる革新的なアイデアが思い浮かばなくなります。アイデアが浮かんでも自分の手で試してみることもできません。

 これらの様々な問題は、ブログの最初に前提とした「大きな組織の中で、実績のあまり無い新技術を使って、新たなサービスを生み出そうというプロジェクト・・・」ということにより発生するものです。だから、何のしがらみもない、新技術が経営の根幹であるベンチャーのほうが大きく成長する可能性があるのでしょう。ベンチャーには、また違う課題があるのでしょうが・・・。この半世紀以上にわたる情報通信革命のなかで、時代の流れに適応できた企業とそうでない企業の栄枯盛衰も理解できるような気がします。

 毎日の生活の中で、ICT(情報通信技術)のお世話にならない日はありません。それが、しみじみとありがたいものであると感じるのか、なんでこんな面倒なことをしなくてはならないのかと思うのか、どうしてここまで自分のことが把握されなくてはならないのかと怒るのか・・・、感じ方は様々ですが、情報通信技術が大きく発展し、私たちの日常生活に深く入り込んできました。その背後に、多くの人々がこのような大変な苦労をしているのだ、その中から日の目を見たものに接しているのだということを知っていても良いと思うのです。毎日、ICT(情報通信技術)のお世話になり、大きな恩恵を受けているのですから。