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第百二十五段情報通信革命の時代を正確に予測した本

最近、今から23年前に読んだ「マルチメディア超企業破壊 (著 月尾嘉男)」という本を自宅の本棚で見つけました。私がまだ40歳代前半だったこのころは、時間があれば本屋に立ち寄り、ビジネスや経済関連の新しい本を次々に買って読んでいました。久しぶりに目にしたこの本を、懐かしさもあってもう一度全部読み直しました。
23年前、この本を読んで衝撃を感じたものの、本のタイトルは少し大袈裟ではないか、「情報革命で潰れる会社・生き残る会社」というサブタイトルも「本当にそうだろうか」と思ったものです。しかし、時が経つとともに、あれはこういう意味だったのか、確かにそうなっていると思うことが何度もありました。今、改めてこの本を読んでみて「23年も前に、時代の流れをほぼ正確に見通していた」と感心しています。

この本は、日本でWindows95が発売(1995年11月23日)される半年ほど前の、1995年4月30日に発行されています。日本初のインターネットサービスプロバイダーやパソコン通信事業者が1992年に、Webブラウザが1993年に誕生し、1994年にダイヤルアップIP接続サービスが始まり、Yahoo!やExciteやInfoseekなどの検索エンジンが誕生しましていました。しかし、Googleの検索エンジン(1997年)、ネット通販やネットバンク(2000年)、Skype(2003年)、SNS(2004年)、YouTube(2005年)、Twitter・Facebook(2008年)、iPad(2010年)、スマホ(2011年)、LINE(2012年)など、今では身近で空気のような存在になったサービスやモノは、まだ存在していませんでした。※

「まえがき」で、『「マルチメディアがもたらすものは、情報社会ではなく、産業革命なのだ」と考えている。それも、十八世紀、イギリスより始まった産業革命がもたらしたこととちょうど正反対のことを起こす「産業逆転革命」なのである。』という衝撃的なことが書かれています。『「マス」から「パーソナル」に、「サプライヤー主権」から「ユーザー主権」に、「オン・スケジュール」から「オン・デマンド」な産業構造に逆転するのである。その逆転は過去にそのまま遡行するのではなく、最新の情報技術によって飛躍し、納期は一気に短縮し、価格は大幅に安くなるかたちで起こってくる。』(『』内は、前書きから引用)と書かれていて、便利な情報技術が登場したと理解するだけでは本質は見えないことを述べています。

前半では、情報産業、金融システム、代理店ビジネス、流通業、基幹産業・製造業、教育の変革、医療システム、行政サービスなどにおいて起こる産業破壊や企業破壊、産業構造の変化、インターネットの可能性と危険性などについて述べられています。

「情報産業」については、新聞、テレビ、雑誌、書籍における変化にとどまらず、家庭や事業所すべてがテレビ局であり新聞社となる可能性、目の前で起きた火事や災害が世界中に発信され、メディアの少数者による情報提供の独占が崩れようとしていると述べています。

「金融システム」については、家庭でできる口座振込(電子決済)や、デジタル・キャッシュによる買い物(決済)の普及、国家が発行する紙幣や貨幣のデジキャッシュへの移行の可能性について言及されています。

「代理店ビジネス」については、深夜でも自宅から利用可能な航空券の予約システム、関連するデータベースを統合する窓口の予想、企業の人材採用に関する周知や連絡、広告のあり方などの変化などをみて、中間業者が無くなることによる低コストな社会の実現を予想しています。

「流通業」については、時間に制約されたり、前に見た商品の方が良かった、申し込んだ後に見た商品の方が良かったというテレビショッピングの欠点を解決したマルチメディア・ショッピングや、テレビショッピングは、問屋、卸屋、小売店、買い手という商流を変え、産業構造の土台を揺すぶられるような激震に襲われると述べています。

「基幹産業・製造業」については、客の試し打ちを分析して真っ直ぐに飛ぶ、あるいは飛距離の出せるオーダーメイドの安価なゴルフクラブや、セーターを注文する客の顔を撮影し、色や模様に関する客の好みを訊いて、セーターを着る場所の背景と組み合わせて提示して、気に入ったら自動編み機に製作させ、一時間前後で市販の6割くらいで提供するビジネス、メガネフレームや家具など、マニュファクチャリング・オン・デマンドをあげています。値段が安い、流通経費・倉庫代・在庫コストがかからない、無駄なものを作ることがないなどの変化を予測しています。

「教育の変革」については、反発係数1の物質や無重力状態など現実にはないシュミレーションの体験、録画された授業を学生がオンデマンドで受講し理解度テストを受ける、ネットワークの中で大学の授業を提供することによる教授や学生の変化について書かれています。

「医療システム」については、僻地や離島の遠隔医療、カルテや医学知識の共有、医療マニュアルなどにより、医療の不均衡が是正されることが書かれています。

「行政サービス」については、印鑑証明の発行、住民票、税金の申告、行政情報の公開などのオンライン化が進展すること、情報を独占的に持っているという役所の特権は大きく減っていくこと、情報を特権的に得てきたマスコミが情報のソースにおいても独占が許されなくなることなどが書かれています。

「インターネットの可能性と危険性」については、『ある特定の人や組織が情報を独占することによって力を持つ時代の終わりを明確にし、情報を共有することによって新しい社会を作ろうという思想が、シームレスでオープンなネットワークを構築する背景にある』こと、そして『企業秘密を保ちたければ、インターネットを安易に使うのは危険で、セキュリティーに関する事件が発生する可能性はかなり高い。』という危険性が述べられています。また、『インターネットのオープン性がビジネスの根本的な考え方まで変えようとしている。情報を世界に向けて自由にオープンにすることで成り立つビジネスを考え出せば、いくらでもインターネットでビジネスを興すことができるであろう。』と可能性についても述べられています。

TouYubeが登場したのは、この本が出版されてから10年後のことでした。メディアザウルスは消滅はしていませんが、火事や竜巻や集中豪雨など、視聴者の撮影した映像や情報の提供を受けて活用するようになりました。深夜に自宅で口座振込をしたり、デジタル・キャッシュで買い物をしたり、海外旅行のための航空券を予約して、同時に傷害保険へ加入したりホテルの予約をしたり、就職活動にインターネットが不可欠なものになっていたり、書籍や買い物はネット通販でするものになったり、自分に必要な機能や性能を指定してパソコンや名刺・年賀状などを注文すると、製造から配達までのプロセスがわかり、決済までネット上で完結したり、企業内でeラーニングが定着したり、大学の講義を見ることが出来たり、夜遅くコンビニの端末で住民票や印鑑証明の発行をしたり・・・・・・、書かれていたことはほぼ実現しています。「23年も前に、時代の流れをほぼ正確に見通していた」本に出会い、その後の変化を眺めてきたことは、次から次に起きる変化に振り回されることが無かったという面で幸せでした。

岡田定晴: (おかださだはる 1952年生)名古屋市出身。平成28年10月にHTML5・CSS3・Javascriptなどのオープンソースで独自構築したウェブサイトをスタートしました。ブログ「平成の徒然草-ICT版」は、情報通信技術の発展と活用によって変わっていく世の中を、この六十数年の間、自ら体験したことや感じたことを随筆で描くものです。