朗読者からのコメント 「おじいさんのランプ」





 「おじいさんのランプ」は、孫が倉で見つけたランプを見て、おじいさんが貧しい孤児から文明開化を感じさせる 「ランプ屋」で身を立て、書物が読めるように努力し、電燈の時代になって「ランプ屋」を棄て「本屋」になった という昔話を孫にするお話です。でも、単に自分の昔話ではなく、今の時代にも十分に役立つ生き方を教えていたように思います。 おじいさんは、最後に孫にこう言います。「わしの言いたいのはこうさ、日本が進んで、自分の古い商売がお役に立たなくなったら、 すっぱりそいつをすてるのだ。いつまでもきたなく古いしょうばいにかじりついていたり、自分のしょうばいがはやっていた 昔の方がよかったと言ったり、世の中の進んだことを恨んだり、そんな意気地のねえことは決してしないということだ」



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 自分の経験から振り返ってみます。若い人、意欲のある人は、新しい技術を採り入れようと真剣に立ち向かいます。 ほんとうに新しい技術を獲得して自分の仕事を伸ばそうとする人も同じです。しかし、今の技術で立場が確立している人、 技術のプロの中には、それまでの権威や地位にしがみつこうとして、新しい動きを阻止しようする人も出てくるものです。 「性能が悪い、そんなものはすぐにダメになる、秩序を乱す、混乱を招く・・・」等と言って、少しでも自分の存在を アピールしようとします。少しでも失敗しようものなら、「俺が言った通りだろう」と言って非難します。 これでは、革新的な技術には太刀打ちできないことは明らかです。長い目で見れば、技術の進歩は止められるものではありません。 止めようとしても無駄です。であれば、冷静に、技術や世の中の動向を分析して、その先を行く努力をすべきでしょう。 そうでなければ生き残れません。

 新美南吉が亡くなる半年前、29歳の時、ちょうど日本が太平洋戦争に突入した直後に発表された「おぢいさんのランプ」。 生きることが大変だった時代に、平和で豊かな社会を築くために「技術の進歩」と「進歩させるための前向きの生き方」の 大切さを訴えていたように思います。

 43分16秒という長い朗読ですが、巳之助(おじいさん)になったつもりで、巳之助がランプ屋になった「少年時代」から、 息子に本屋を継いで孫に話をする「おじいさん」までを演じます。


岡田定晴


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